理事長挨拶
2023年12月に開催された日本コンピュータ外科学会総会の際に開催された新理事会において、新理事長に選出されました東京大学院工学系研究科の佐久間一郎です。篠原理事長の後任として篠原理事長をはじめとする先輩の先生方が築いてこられた本学会の活動を継承し、さらに発展させるよう努めてまいりたいと存じます。会員諸氏おひとりおひとりの活動が学会の活動の礎であり,会員の皆様の学術活動を支援するよう学会運営に努めて参ります。何卒よろしくお願い申し上げます。
日本コンピュータ外科学会は、外科分野の治療面、特に手術支援に関して コンピュータ技術を基礎にした各種の最先端医療機器やシステムの調査・研究・情報交換を行うことを目的として活動を行っている学会です。
外科医の目と手の支援をする技術手段の研究開発,すなわち外科医の第3の目と手,そしてそれを支援する情報処理に関して,技術開発とともにその臨床応用に向けた研究を医工研究により推進する活動を進めています。具体的な研究課題としては,外科手術支援のための医用画像計測と医用画像処理,手術ナビゲーション,手術支援ロボット,外科医の臨床的判断を支援するための情報システムなどがあります。
現在内視鏡手術等の低侵襲手術においては手術支援ロボットの普及が進んでおり,脳神経外科等の分野では手術ナビゲーションシステムの普及が進んでいます。日本企業による手術ロボットの実用化も行われています。その意味ではコンピュータ外科関連技術が本格的に広く臨床応用されつつ段階にあると言えます。
この度理事長を拝命するにあたり考えたことは,2020年に開催された30回大会を迎えるにあたり,学会誌第23巻第3号の巻頭言で述べさせていただいた内容(佐久間一郎: 新たなコンピュータ外科分野展開の必要性,J JSCAS vol.23 no.3 2021/93)とほぼ同じであります。それはこれまえでの「外科医の第3の目と手,そしてそれを支援する情報処理」という概念を大切にしつつ,それを超える新しい技術開発につながる学術活動を推進することがこの学会の使命であるということであります。
医工学技術は臨床応用されることで,新しい利用技術の開発が行われ,その価値と限界が明確になります。そこに新しい研究課題が生まれます。前述の通りいまやコンピュータ外科関連技術が広く臨床される状況になりました。これまでの「外科医の第3の目と手,そしてそれを支援する情報処理」という概念を再検討し,臨床応用で明らかになる課題を解決するための医工学研究の推進をしていかなければならないと考えています。本学会の今日的な使命は、実用期に入ったコンピュータ外科関連技術、手術支援ロボットの研究の臨床応用の拡大を図るとともに、その過程で明らかになる課題を分析し、これまでの概念を継承しつつ、これを超える新しい概念の提唱につながる研究活動を推進することです。
さらに研究成果の社会実装の促進も重要な課題となります。いかに優れた新規性の高い研究成果であったとしても,その成果が実際に臨床応用されて初めて価値を産むものとなります。産官学の連携による社会実装の加速支援も学会が推進すべき重要な機能の一つであります。
また,学会発足当時,日本のコンピュータ外科学は国際コンピュータ外科学会の発足を主導するなど大きな国際的影響力を保有していました。日本のこの分野における国際的なプレゼンスは相対的に弱まっていることを真摯に受け止め、英文での研究成果発表の推進等の活動を進めます。
このような問題意識のもと,さらなる本分野の研究活動の活性化に資する活動を、会員諸氏並びに広く一般の方々からのご意見を伺いながら推進して参りたいと存じます。そして多くの新たな会員の本学会への参加も歓迎いたします。多くの関係者と協力し,より良い医療を実現するための医工学技術を医工連携,社会連携により実現していきたいと考えています。何卒よろしくお願い申し上げます。
佐久間一郎 東京大学院工学系研究科